あきらと学ぶ

最近思うこと 「人間の創造性を涵養する」

2007年 (平成 19年) 4月 12日 (木)

ハリウッド映画 「シックス・センス」 で天才子役を演じたハーレイ・オスメントが次作で主役を演じた映画 「ペイ・フォワード」 は、アカデミー賞俳優ケビン・スペイシー演ずる新任教師が中学校の教壇に立つシーンからスタートします。「世の中を変えていくために何ができるか」  そのアイデアを生徒たちに問います。

オスメント演じる中学一年生のトレバー少年は一生懸命考えた末にペイ・ (イット) ・フォワード 「親切連鎖」 を考え出します。親切を受けたら、受けた人に御礼を返すのがペイバックだとすると、親切を受けたら見知らぬ (複数の) 誰かに親切を返していくのがペイ・フォワード。その人はまた見知らぬ誰かに親切を返していく。そうすれば、やがて善意の連鎖運動が起き、世の中が素晴らしく変わっていく。これがトレバー少年の考え出した世の中を変えていく答えでした。そして、それはどこからともなく静かに世の中に広がっていきます。

この映画が教えてくれる事は、見返りを期待しない善意の心が世の中を変えること。そして、教育の原点とは自らが自分で考え出す、という二点です。

前回の国会で、教育基本法が改正されました。教育政策の憲法とも言える教育基本法は、昭和 22 年に施行されました。前年に公布された日本国憲法の精神を受けて教育基本法ができた訳です。戦時中、軍部の抑圧により個人の基本的人権は著しく制約されていました。『欲しがりません、勝つまでは』 『贅沢は敵だ』 等々、個人の権利は戦争遂行という国家の、と言うよりは軍部の目的達成の前に著しい制約を受けました。

戦後の民主憲法は、軍部の独走を許さないシビリアンコントロールをその根幹とし、個人の自由や個人の権利をしっかりと謳いあげました。これを受けた教育基本法は、個人の尊厳や人格の完成など、個人やその権利にかかわる色々なものを規定しました。それ自体は結構な事なのですが、個人のよってたつ基盤となる社会と個人との繋がり・社会への責務・公共への責任といった観点は、あまり規定されていませんでした。個人が集合した社会があってこそ個人は生きられる訳でありますが、個人のよってたつ基盤を構成する要素が不十分な、いわば置き去りにされてしまった感は否めませんでした。

本来、『権利は義務を伴い、自由は規律の中にあり、時として公共の利益は個人の権利に優先する。これら諸々を正しく理解できる国民が育まれる事こそ教育の原点』 であるはずです。そうした問題提起を踏まえ、道徳心や自律心、公共の精神、国際社会の平和と発展への寄与などについて、より一層重視する視点から、教育の憲法たる教育基本法は改正される運びとなった訳です。

その際に指摘された議論として、ゆとり教育への反省がありました。国際的な学力調査等において、我が国の子どもの学力が低下傾向にあるのではないかといった懸念が指摘された訳です。考えてみれば、受験戦争に象徴されたように大学受験に至るまでの詰め込み教育は子供の人間性すら踏みにじりかねないとの反省から、ゆとり教育へと転換していった訳ですが、実は先進諸国では猛烈な学力向上のための取り組みが進行していて、ゆとり教育の時間数では国際競争に勝てるだけの知識を身につけることはおぼつかないという反省に至ったためです。

しかし、ここで忘れてならないのは冒頭言及した教育の原点とは自分自身で考えるという事、すなわち創造性を涵養する事だという点です。日本でかつて指摘され、いま中国の上流家庭で危惧されている問題は詰め込み教育への反省です。教育とは常に教師からの情報を生徒の頭にすり込んでいく事であり、メモリーの容量の大きさが生徒の優劣を決める、という考え方への警鐘です。教師の質問に対して 「まだ教わっていません」 と答えるのは日本の生徒だけの特徴と言われましたが、それはまだ教わってない事を自分なりに考え出そうという頭脳の訓練がまったくなされていない事を危惧する象徴的な日本の現象でした。そして今、中国で同じ問題が懸念されています。

ペイ・フォワードが教えてくれる事は、まだ教わっていない事を生徒が自分の頭脳をフル回転させて答えを導き出していくという創造性の点です。動物と人間を線引きする最大の物指しは、『習性』 と 『創造性』 との違いであります。かつて経験した事のない未曾有の事態に直面した時、どういう適切な結果を導き出していくか。それこそホモサピエンスの原点、創造性なのです。

世の中はインターネット社会に邁進しています。情報検索システム Google は、森羅万象、地球上のすべての情報を整理する、と宣言しています。あらゆる疑問がインターネットを検索するだけであらゆる人にその答えを手軽に出してくれます。検索をしさえすれば、世の中のすべての問題に対する解答が目の前に現れます。きわめて便利なインターネット社会が人類の最高の能力・創造性を衰退させていくという懸念を覚えるのは私だけでしょうか。

経済産業大臣 甘利 明

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